第21回「不眠症」

名古屋市立東部医療センター 市民健康講座

不眠症

開催日:平成18年6月21日(水曜日)
演者:精神科部長 川合 一嘉

不眠症のイラスト不眠(睡眠の不足)は、睡眠障害の代表的なものですが、たとえばその原因によって次のようにいくつかに分類できます。

  1. 生活習慣による不眠(不規則な勤務、不摂生な生活、時差ボケなど)
  2. 生理的原因による不眠(夜間の騒音、刺激物の摂取など)
  3. 心理的原因による不眠(ショックな出来事、心配事など)
  4. 精神障害による不眠(うつ病、躁うつ病、統合失調症、パニック障害、アルコール依存症など)
  5. 神経症性不眠(いわば「不眠ノイローゼ」とでもいった状態)

このうち神経症性不眠の不眠ノイローゼは、本当の意味での不眠というわけではありません。客観的には必要な睡眠はとれているにもかかわらず「眠れていない」と思い込んでいたり「眠れないのではないか」と強くこだわったりしてしまうといった事態です。そもそも生理的にどうしても必要な最小限の睡眠時間というのは、それほど長いものではないようです。多くの人の「眠れない」という悩みは、睡眠時間が不足しているというより「気持ちよく眠れない」という悩みのようです。

「気持ちのよい眠り」は、「美味しい食事」が生理的に必要な栄養を摂る以上のものであるのと同じく、一種のぜいたく品とも言えます。とはいえ、「不眠」があまりにつらければ、睡眠導入剤などを利用するのは悪いことではありません。薬物は、医師にきちんと処方してもらえば(アルコール飲料などにくらべても)危険なものではないのです。注意しなければならないのは、4の、不眠が精神障害の(前駆)症状として現れる場合です。この場合は不眠そのものの治療よりも、疾患全体の治療を考えるのが正しい態度です。中でも「うつ病」は、以下のような理由から特に重要です。

まず第一に、非常に頻度の高い、ありふれた疾患であること。第二に、この疾患ではほとんどの場合睡眠障害、とりわけ不眠がみられること。精神科を「不眠」を主訴に受診する患者さんの半分(以上)がうつ病と言ってよいかも知れません。第三に、この疾患はきちんと見つけて治療すればかなりの割合で改善するものであること。しかしその一方で第四に、見落としていて悪くすると(自殺という形で)死ぬことがあること。うつ病は、ある程度重くなれば、「元気がでない」「落ち込む」といった状態になりますが、軽いうちは、種々の身体的愁訴と、そして不眠とで終始し、またよく喋るし動くし、素人目には「精神科の病気」に見えないことが多いです。

さらに、そもそもうつ病に罹るような人は、ごく「普通の」人、明るくて真面目に働く常識的な人であることが多く、「まさか自分がうつ病なんかになるなんて」という声もしばしば耳にします。「精神科の患者は変わった特殊な人間である」という世間の偏見は、少なくともうつ病患者には当てはまりません。神経症の不眠が「眠りにつけない」という形をとることが多いのに対し、うつ病における不眠は「途中で目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」という訴えになることが多いです。そして睡眠導入剤(一般的に「眠り薬」として使われているもの)だけでは改善しないのが普通です。

いずれにしても「不眠」だけでも気軽に精神科を受診してみてけっこうです。

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