第10回「もの忘れについて」

名古屋市立東部医療センター 市民健康講座

もの忘れについて

開催日:平成17年6月15日(水曜日)
演者:第五内科部長 山名 知子

物忘れのイラスト年をとると「もの忘れ」をして困るという経験は、どなたにもあるかと思います。多くの場合、あまり心配いりません。体験したことの一部分が思い出せないど忘れは、認知症に直接移行することはなく良性の物忘れで、新しいことが覚えられないで起こる物忘れが認知症につながる悪性の物忘れとなります。

悪性の物忘れは、同じ事を何度も聞いたり、質問したり、自分が話したことを忘れ、何度も同じ話をしたりします。特に日付や場所が覚えにくくなり、進行すると体験したこと自体忘れてしまいます。大切な物をなくしたり,置き忘れたりする、水道やガス栓の締め忘れが目立つようになった、今まで好きだった物に対して興味・感心がなくなった、服装がだらしなくなった,職場あるいは家庭内において、今までできていた仕事や作業がこなせなくなった、簡単な計算の間違いが多くなった、ささいなことで怒りっぽくなったといった症状は注意が必要です。

物忘れはどうして起こるのでしょうか。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。外界刺激のうち、注意を向けた物は脳に取り込まれ、一時的に保存されるものが「短期記憶」で、短期記憶のうち、特に意味を考えたり、繰り返し学習したりすると、その記憶は固定されて長期的に保存されます。これが「長期記憶」です。

良性物忘れは、長期記憶に保存されている必要な記憶がうまく引き出せないもので、悪性物忘れ(認知症)は短期記憶はできても長期記憶ができないものです。特に一回体験の記憶ができないのが特徴です。悪性物忘れ(認知症)は次のように分けられます。痴呆をきたす病気の中で、この2つの病気が最も多いです。

  1. アルツハイマー型痴呆
  2. 脳血管性痴呆

アルツハイマー型痴呆は脳の神経細胞が急速に減って脳が萎縮してしまう病気です。物忘れがジワジワと進行し、徘徊、妄想、暴食、暴力といった異常行動が表れ、常時介護が必要になります。今のところ原因不明で初期に発見して、内服薬などで進行を遅くするほか治療法はありません。

脳血管性痴呆の脳血管性は原因がはっきりしているので、初期に発見すれば回復が期待できます。その原因の大部分は、脳の動脈が硬化し、血管が破れたり(脳出血)血栓が詰まったり(脳梗塞)する脳血管障害で脳が部分的に死んでしまったためです。つまり脳卒中の後遺症として起こります。

ほかには骨折、重症の風邪や肺炎、肉親や配偶者との死別、事業の失敗など、強いストレスがきっかけで起こることもあります。 脳血管性の症状の多くは、頭痛、めまいがきて、急に物忘れがひどくなります。次いで何事にもやる気を失い、家に閉じこもり口数が少なくなります。この辺は「うつ病」と間違われる点ですが、さらに脳の障害された部位によってさまざまな症状が表れます。

例えば手足にマヒがくる、食べ物が飲みこみにくい、舌がもつれる、なかなか言葉が出ない、読み書きができない、尿を失禁する、涙もろくすぐ泣き出すなどです。脳血管性痴呆の予防は、第一は高血圧の予防です。すでに発症している人はその管理を徹底すること。第二は禁煙です。タバコは肺ガンばかりか動脈硬化も進めます。第三はストレスに負けないこと、第四は肥満の解消、第五は適度の運動、第六は塩分を控えたバランスの良い食事です。つまり認知症の予防とは生活習慣病の予防と一致しているのです。

さらにもう一つ大切なのは頭を使う生活です。そして記憶を鍛えるために精神活動全体を高めることです。例えば、日記をつける、計算ドリルをする、音読する等です。他に、知的好奇心を高めるような生き方が大切なのです。趣味を持つ、旅行に行く、絵を描く、歌う、短歌や俳句を作る等です。

上記の2つの病気ほど多くはありませんが、痴呆をきたす病気の中には、脳外科的手術で症状の改善が期待できる病気もあります。「正常圧水頭症」や「慢性硬膜下血腫」などがそれに該当します。これらの病気は脳の画像検査(CTやMRI)で容易に診断できます。手術が必要な場合には脳外科医に紹介します。

その他、「甲状腺機能低下症」のように内科疾患が原因で知的機能が低下することがあります。「甲状腺機能低下症」では甲状腺ホルモン製剤を補充(お薬を服用)することにより、痴呆症状などは改善します。痴呆が疑われましたら、まず神経内科専門医にご相談してください。

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